空き家倒壊のリスクとは?何年で危険になるのか|原因・時期・対策を解説

空き家倒壊とは?報道されている事例

2024年から2025年にかけて、日本の空き家問題は、景観や管理の問題を超え、人命に直結する倒壊リスクとして顕在化しました。

象徴的なのが、令和6年能登半島地震です。
旧耐震基準で建てられた空き家が多数倒壊し、避難路や緊急輸送道路を塞いだことで復旧作業が大きく遅れました。
公費解体の進捗にも自治体間で差が生じ、七尾市では約2,000棟が未解体のまま残っています。

自然災害がなくても、老朽化した空き家は倒壊します。

北海道江別市では積雪の重みにより空き店舗が倒壊し、鹿児島県枕崎市では台風対策としてネットを設置していた空き家が強風で倒壊し、周辺で停電が発生しました。
応急的な対策では、構造的な寿命を迎えた建物を守ることはできません。

さらに深刻なのが、2025年に長崎市で発生した空き家アパートの階段崩落事故です。
売却の内見中に腐食した外階段が崩れ、所有者本人が死亡しました。この事故は、空き家が資産ではなく、重大な危険物になり得ることを示しています。

空き家の倒壊は、もはや個人の問題ではなく、地域全体の安全に関わる社会的課題です。

空き家は何年で倒壊リスクが高まるのか

空き家について多くの方が気にされるのが、「この家はいったい、あと何年もつのか?」という点です。
実はその答えは、築年数によって大きく異なります。

特に注意が必要なのが、築40年以上の旧耐震住宅です。基礎や構造が湿気に弱く、管理されないまま放置されると、5〜10年ほどで倒壊リスクが急激に高まります。築20〜40年の住宅でも、換気停止による内部結露や雨漏りが進行し、15年前後で危険な状態に陥るケースがあります。

空き家は放置した瞬間から、見えない部分で劣化が進み始めます。
築年数ごとのリスクや、倒壊に至るまでの具体的なプロセスについては、以下の記事で詳しく解説しています。

放置から何年で倒壊する? 危険な「築40年」の境界線と劣化のタイムライン

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人が住まない家が急速に劣化する理由

「頑丈に建てた家だから、しばらくは大丈夫」

と思われがちな空き家ですが、日本の木造住宅は人が住み、換気や管理が行われることを前提に成り立っています。

人の出入りがなくなり管理が途絶えた瞬間から、家の内部では湿気がこもり、結露が発生し、目に見えない劣化が急速に進行します。
特に高温多湿な日本では、壁の中で木材が水分を含み、腐朽菌やシロアリが活発化することで、外見はきれいなままでも構造強度が失われていきます。
放置空き家の劣化は偶然ではなく、必然的に進む「内側からの崩壊」です。
詳しい仕組みについては、以下の記事で解説しています。

なぜ「人が住まない家」は急速に腐るのか?空き家が「自らを消化する」恐怖のメカニズム

「実家が空き家になったけれど、頑丈に作った家だから数年は大丈夫だろう」。 そう考えて放置されている家主さんは少なくありません。 しかし、日本の木造住宅は「人が住…

空き家倒壊と損害賠償

空き家が倒壊し、通行人や近隣住宅に被害を与えた場合、その責任は原則として空き家の所有者が負うことになります。

民法では、建物などの「工作物」に欠陥があり、第三者に損害を与えた場合、所有者は過失の有無にかかわらず損害賠償責任を負うと定められています。

「老朽化に気づかなかった」
「遠方に住んでいて管理できなかった」

といった理由では法的に不十分で、免責の根拠にはなりません。
被害が人身事故に及んだ場合、賠償額は数千万円から、場合によっては億単位に達することもあります。

さらに、管理不全が明らかであれば、刑事責任を問われたり、自治体から危険空き家として是正命令や行政代執行を受ける可能性もあります。

空き家の放置は、単なる資産管理の問題ではなく、重大な法的・金銭的リスクを伴う行為であることを認識し、早めの対策を取ることが重要です。

倒壊前に見られる危険サイン

家の倒壊は、地震や台風といった自然災害だけでなく、老朽化や管理不足によって突然起こる場合もあります。

特に空き家や築年数の古い住宅では、人の出入りがなくなることで湿気がこもり、柱や梁の腐食、シロアリ被害が進行しやすくなります。その結果、気づかないうちに建物の強度が大きく低下していきます。

倒壊の前兆としては、基礎や外壁のひび割れ、床の傾き、ドアや窓の開閉不良、屋根の劣化などが挙げられます。
こうした変化は、構造全体に歪みが生じているサインであり、放置すると倒壊リスクが急激に高まります。

また、1981年以前に建てられた住宅は旧耐震基準で設計されているため、補強されていない場合は特に注意が必要です。

倒壊リスクを放置すると、人的被害や近隣トラブル、資産価値の大幅な低下につながる可能性もあります。建物に異変を感じた時点で現状を正しく把握し、修繕・補強・解体など状況に応じた対策を検討することが、安全と将来のリスク回避につながります。

空き家が倒壊しそうな場合の通報・連絡先

空き家が倒壊しそうな場合は、まず安全確保を優先し、近づかず周囲にも注意喚起してください。
緊急性が高い(今にも崩れそう・瓦や外壁が落ちている等)場合は110番または119番へ通報します。

緊急でない場合は、市区町村の空き家担当窓口(建築指導課・住宅課など)へ連絡し、現地確認や所有者への指導を依頼します。
道路に危険が及ぶ場合は、道路管理者(市道=市、県道=県、国道=国)にも連絡すると安心です。

空き家の倒壊リスクと行政の対応

空き家を放置して倒壊のおそれが高まると、市町村は「空家等対策特別措置法」に基づき調査を行い、危険性や衛生・景観面の問題が大きい場合は「特定空家等」に認定します。

認定後は、所有者へ助言・指導を行い、改善が見られなければ勧告(固定資産税の住宅用地特例が外れる可能性)や命令へ進みます。

命令にも従わない場合、最終手段として行政が敷地に立ち入り、倒壊防止のための修繕や解体、越境枝の伐採、ゴミ撤去などを行う「行政代執行」が実施されます。

費用は原則として所有者負担で、納付がなければ税金に準じた強制徴収(差押え等)の対象となるため、指導段階で早期に対応することが重要です。

空き家が特定空き家に指定され、強制解体されるまで。

空き家の放置は景観や衛生、さらには防災・防犯面で深刻な問題を引き起こします。 これに対応するため、国は「空家等対策特別措置法」を制定し、自治体に「管理不全の空き…

空き家が倒壊して道路をふさいだら?事故の危険

管理されていない空き家が道路沿いにあると、外壁や屋根材の落下・飛散で通行人や車両に被害が出るおそれがあり、行政はまず交通の安全確保を優先します。

鹿児島県垂水市の事例では、倒壊の恐れがある国道沿い空き家に対し、道路管理者が注意看板やコーン設置、必要時の通行規制準備など“事故を起こさない措置”を実施しました。ただし建物は私有財産のため、勝手に撤去できず、所有者特定と任意対応が最大の壁になります。

自治体は固定資産税情報の活用などで所有者を探し、補助制度の案内や業者紹介を組み合わせて解体・修繕を促します。それでも改善されず危険が高まれば「管理不全空き家」から「特定空き家」へと段階的に指導が強まり、最終的には行政が代わりに解体する行政代執行が検討されます。

実際に外壁崩落で道路が塞がり撤去が必要になる例もあり、放置が長いほど事故・費用・責任のリスクが増えるため、早期対応が重要です。

空き家倒壊を防ぐための選択肢(管理・解体)

空き家の倒壊を防ぐためには、「何もしない」という選択肢は存在しません。放置を続ければ老朽化は確実に進み、倒壊や外壁崩落による事故、行政指導や損害賠償リスクへと直結します。現実的な対策は、大きく分けて「管理を続ける」か「解体する」かの二択です。

管理を選ぶ場合は、人が住んでいなくても“住んでいる状態を保つ管理”が必要です。
定期的な換気、通風、雨漏りや外壁の点検、草木の手入れを行い、湿気と劣化の進行を止めます。
特に築年数が浅く、将来的に売却や活用を検討している空き家では、最低限の管理を続けることで資産価値と安全性を維持できます。ただし、管理には継続的な手間と費用がかかる点は避けられません。

一方、老朽化が進み、修繕費が高額になる空き家では、解体が現実的な選択肢となります。
解体することで倒壊リスクを根本から排除でき、近隣トラブルや行政指導の心配もなくなります。更地にすることで土地として売却しやすくなるケースも多く、自治体によっては解体補助金を利用できる場合もあります。

空き家対策で重要なのは、「危険が顕在化してから動く」のではなく、「倒壊する前に判断する」ことです。管理か解体かを早めに見極めることが、空き家倒壊を防ぐ最も確実な対策と言えるでしょう。