空き家対策事例一覧:全国の先進的な取り組み

空き家問題は、地域経済や防災、景観維持に直結する重要な課題だと言えます。人口減少が加速度的に進む今後においては、大きな社会的課題としてますます注目を集めることでしょう。

ここでは、全国の自治体やNPO、民間団体が取り組んでいる先進的かつ多様な空き家対策の事例を、その目的別に分類してご紹介します。

内容については国土交通省の「空き家対策における事例集」を参照し、適時、独自の視点も交えながらご紹介します。

数が多いので、大きく「発生抑制・普及啓発」「実態把握・情報の可視化」「流通・マッチングの促進」「利活用(リノベーション・転用)」「除却・権利整理・エリアマネジメント」というカテゴリに分けてご紹介します。

発生抑制・普及啓発:空き家予備軍を減らす取り組み

空き家が問題化する前の段階で、所有者や住民への意識啓発や、住み続けられる環境を整えるための取り組みです。

分類事例内容地域例
若者との連携大学生や高校生が空き店舗調査、ランチマップ作成、実際の店舗運営(インキュベーション)を行い、若者の視点を取り入れつつ商店街への理解を深める。茨城県水戸市、岐阜県高山市
「終活」連携(啓発)将来の空き家化を防ぐため、元気なうちに住まいの将来を考える「住まいの終活ノート」を作成し、セミナーで配布。神奈川県
「終活」連携(後見)NPOが「見守り」から「成年後見」「死後事務」までを受託し、権利関係の整理や跡地活用をスムーズにする体制を構築。宮崎県都城市
司法書士等との連携「住民学校」などの講座を開き、相続登記の促進や家族信託の啓発を行い、空き家予備軍を「負動産」にしないための意識改革を行う。長野県
住み替え前の改修提案高齢者が住み替える前に、既存住宅を「子育て世帯向け」などにリノベーションする設計案を提示し、流通しやすくする。京都市洛西ニュータウン

メリット・利点

地域の活力維持と世代間交流の促進が期待されます。特に「若者との連携」による店舗経営や「住み替え前の改修提案」は、若者の地域への定着を促し、空き家を単なる負債から新しい経済活動とコミュニティの拠点に変える可能性を秘めています。

懸念事項・課題

取り組みが所有者の「終活」意欲と地域のニーズに大きく依存します。所有者の意識改革が不十分な場合、対策が進まず、特に地方では担い手の確保(司法書士や若者)が困難になる可能性があります。また、改修後の住宅が市場で本当に求められるかの検証と、持続的な活動資金の確保も課題です。

実態把握・情報の可視化:現状を正確に把握する仕組み

空き家の所在や状態を正確に把握し、対策を立てやすくするためのデータベース化や調査の取り組みです。

分類事例内容地域例
GIS・航空写真の活用航空写真やGIS(地理情報システム)を用いて空き家を抽出し、管理システムを構築して業務を効率化。愛知県新城市、静岡県掛川市
市民・学生によるパトロールクラウドシステムを活用し、市民や学生が空き家パトロールを行って情報を報告・蓄積。栃木県小山市

メリット・利点

この取り組みは迅速な対応と戦略的な対策が可能になります。GISや航空写真の活用は、空き家の地理的集中度や経年変化を視覚的に把握でき、優先度の高いエリアへの資源投入を最適化します。市民・学生パトロールは、地域住民の当事者意識を高める効果もあります。

懸念事項・課題

情報収集の継続性と正確性の担保が課題です。GISは初期導入と更新に費用がかかり、市民パトロールは報告の質にばらつきが出やすいので別途フォローが必要でしょう。また、集めた情報を個人情報保護に配慮しつつ、いかに効果的な対策立案(例:具体的な所有者へのアプローチ)に繋げるかの運用力が問われます。

流通・マッチングの促進:市場に出にくい物件を動かす仕組み

一般市場では売買・賃貸が難しい物件の流通を促すための新しい仕組みづくりです。

分類事例内容地域例
企画提案型空き家バンク単なる物件紹介ではなく、360度カメラ映像や改修イメージ、収支プランまで提案する進化型空き家バンクを構築。北海道下川町
低額・困難物件の対応行政と専門家団体が協力し、価値が低いとされる物件の買取や寄付相談を受ける不動産フェアを開催。和歌山県
専門サイトの開設一般市場では流通しにくい長屋や借地権付き建物などを専門に扱うマッチングサイト「空き家ひろば」の運営。大阪市
建物状況調査の普及売主・買主の不安を解消するため、建築士による建物状況調査(インスペクション)や瑕疵保険加入を促進するセミナーやツールを作成。大阪府、三重県大台町

メリット・利点

「企画提案型空き家バンク」や「専門サイト」は、一般流通に乗らないニッチな物件に新たな価値を見出し、需要と供給を結びつける可能性があります。また、「建物状況調査」の普及は、売買双方の不安を解消し、取引を促します。なかなか流通しにくい状況の是正と安心感の提供という点で貢献度が大きいのではないでしょうか。

懸念事項・課題

専門家や行政の関与の持続性が課題です。「低額・困難物件」への対応は、専門家団体の善意や負担に依存しがちで、恒常的な支援体制の確立が難しい側面があります。また、企画提案の質や専門サイトへの集客力が、マッチングの成否に直結するため、運営ノウハウが求められます。

利活用(リノベーション・転用):空き家を地域の資源へ変える事例

空き家を単なる住宅としてではなく、地域の課題解決や賑わい創出に役立てる事例です。

分類事例内容地域例
複合シェアサービス型農業体験者向けの短期移住用や、ギャラリー・交流スペースを併設した賃貸住宅への改修。鹿児島県鹿屋市
コミュニティ利用空き家を地域住民が交流できる図書館として開放し、ボランティアによって運営。千葉県船橋市
DIY型賃貸・イベント入居者自身が修繕を行うDIYイベントを開催し、低コストでの活用と愛着形成を促す。栃木県栃木市
外国人向けシェアハウス増加する外国人労働者向けに、木造戸建てをシェアハウスとして活用し、家賃負担の軽減と空室リスク分散を図る。-
外国人向け居住支援外国人が地域に馴染めるよう、地域住民が相談相手(バディ)となる制度を導入し、空き家活用と多文化共生を同時に推進。愛知県高浜市
福祉的活用高齢者、障がい者、子育て支援などの福祉拠点として空き家を活用するためのガイドブック作成や法制度の提案。横浜市、東京都世田谷区

メリット・利点

地域の多様な課題解決とコミュニティ再生のきっかけになり得るのが大きなメリットですね。空き家を単なる住宅でなく「複合シェアサービス」や「コミュニティ利用」の場に変えることで、外部人材の誘致や地域住民の交流促進、福祉ニーズへの対応など、一石何鳥もの効果が期待できます。人口減少社会においては、昔あった地域社会を再生することが地域活性化の糸口になるかもしれません。

懸念事項・課題

利活用後の持続的な運営と収益化が最大の課題です。特に「コミュニティ利用」や「福祉的活用」は、運営を担う人材の確保と費用対効果をどう担保するかが重要です。また、「外国人向けシェアハウス」の事例では、地域住民との多文化共生への理解と調整が不可欠となります。日本文化を維持しつつも外国人の心的負担に歩み寄るというのは今の日本にはハードルが少々高いかもしれません。

除却・権利整理・エリアマネジメント:地域全体の土地利用改善

個別の空き家対策を超え、地域の土地利用全体を改善し、防災や景観の維持に貢献する取り組みです。

分類事例内容地域例
ランドバンク(土地銀行)狭小地や接道不良の空き家・空き地を集約し、利用しやすい土地に整形して再販・活用。山形県鶴岡市
借地権の整理権利関係が複雑な借地上の空き家について、地権者と連携して解体や跡地利用の計画を策定。島根県江津市
残置物の再販による費用捻出空き家に残された家財道具を再資源化・販売し、その収益を解体費用の一部に充てる仕組みを検討。兵庫県たつの市
特定空き家の寄附受け入れ条件を満たす特定空き家等を市が寄附として受け入れ、跡地を公共的に活用。大阪府泉佐野市
財産管理人制度の活用相続人不存在の空き家に対し、市が予納金(申立費用)を低減させる工夫をして不在者財産管理人を選任し、処分を促進。大阪府八尾市

メリット・利点

地域全体が抱える空き家の問題解決とリスク除去を通じて、土地の価値と安全性を根本から高めることが可能となり得る点がメリットだといえるでしょう。個別の空き家対策では困難な複雑な権利関係の整理や、接道不良地の整形を「ランドバンク」などの業態が担うことで、地域全体の土地利用の高度化と防災・景観の改善が図られ、持続的な価値向上に繋がります。

懸念事項・課題

これらの取り組みは、総じて時間とコストの負担が甚大です。特に「借地権の整理」や「相続人不在の財産管理制度の活用」は、法的・行政的な手続きが煩雑で、完了までに長期間を要します。また、「ランドバンク」による土地取得や整備には多額の初期費用が必要であり、その回収と再利用の需要を確実に見込む必要があります。

まとめ

空き家問題は、「発生抑制」から「除却・権利整理」まで、多様なアプローチで対策が進められています。

  • 発生抑制・啓発では、終活連携や若者との協働で未然の空き家化を防ぎ、
  • 実態把握では、GISやパトロールで正確な情報可視化を推進しています。
  • 流通・マッチングでは、企画提案型バンクや建物状況調査で取引の停滞を是正し安心感を提供。
  • 利活用では、空き家を福祉やコミュニティの場へ転用し地域課題の解決を図っています。
  • 除却・権利整理では、ランドバンクや財産管理人制度で複雑な土地の構造的な改善を目指します。

課題は、費用の確保、持続的な運営人材、法的・行政手続きの煩雑さにあり、地域に応じた工夫が求められます。